同僚は副社長様
『遅いよー…準備できた?』
開口一番、そう聞いてくる凪子に首を振る。
「ごめん、もうちょっと時間かかるから中入って待っててくれる?」
『えっ、いいの?』
私と同じく、凪子も驚いたようで一瞬戸惑いの色を顔に写したけど、私が頷くと遠慮がちに副社長室の中へと足を踏み入れた。
『お、お疲れ様です、副社長…』
滅多にお目にかかれない副社長に対して緊張を隠せないのか、いつもより半音高めの凪子の声が副社長室に響く。
『お疲れ。そこのソファでも座って、くつろいでくれて構わない。』
そう言った副社長は、それ以降視線をこちらに向けることはなかった。
そんなそっけない態度にどう対応したらいいのか全くわからないらしい凪子の動揺を肌で感じ取った私は、心の中でごめんと謝りつつも、彼女を客用ソファへと誘導した。
『ねぇ、ちょっと。』
ソファに腰掛けた凪子が、無音の部屋で待ち続けるのに耐えかねたのか、小声で私を呼ぶ。
きっと静かな部屋に配慮して小声を出しているんだろうけど、無音の副社長室で発せられた音はどんな音でも副社長には筒抜けだろう。
「ごめん、もうちょっと待って。」
昼ごはんの催促だろうと察した私はパソコンをシャットダウンして、出かける準備に取り掛かる。