同僚は副社長様
『”響くん”だっけ?』
「っ…!」
思わず顔が赤くなるのを感じた。
こうやって他人に冷やかされることに慣れていない私は、自分の意思に反してどんどん体温を急上昇させていく。
『友永さんも、飲み会に来た時からずーっと美都のことしか目に入ってないって感じだったし!』
「え…う、嘘だよ、そんなの」
そんなこと初耳だ。
私のところに来るまで響くん、凪子たちと楽しそうに話してたように見えたけど。
それに、凪子がそう見えたのならもしかしたら、響くんはずっと私に声をかけるタイミングを計っていたのかもしれない。
それで私のことをチラチラ見てたのかな。…私は目の前の料理に釘付けで何も気づかなかったけど。
『こんな嘘つくわけないでしょ!結局、昨日の収穫は美都と友永さんが蒸発したことくらいだったし』
「蒸発って」
何その昼ドラみたいな言い方。
『昨日の飲み会誘ったのは私なんだから、ちゃんと説明しなさいよ!』
まるで、私からちゃんとした真実を聞くまで離さないとでも言いたげな凪子の瞳に降参しそうだ。
あーもう…きっと適当に流そうとしてもこの態度じゃきっと無理そうだな…。
「凪子が期待するようなことなんて何もなかったよ、本当に。」
『じゃあ何で2人して下の名前で呼び合ってんの。』
「それはっ…」
凪子の質問に言葉を詰まらせてしまって視線を逸らした先に見えたのは、遠くから私たちを見つめている冷たい双眼だった。
…やばい。
副社長がいること忘れかけてた。
しかも後半、2人とも声のボリューム大きかったし。
副社長が業務中のノイズをどれだけ嫌っていることを知っている私は、慌てて凪子をこの部屋から連れ出す。
「わ、わかった。…ちゃんと話すから、ご飯行こう。ね、ご飯」
『わっ、ちょっと美都?!』
凪子の二の腕を掴みソファから立ち上がらせると、足早に副社長室から出て行ったのだった。