同僚は副社長様
「はい、今すぐお持ちします」
凪子との食事の前に印刷を済ませていた資料を手に取り、副社長の元へと急ぐ。
こういう時は、下手にご機嫌取りに話を向けるのは良くないことを、この半年で学んでいる。
「お待たせしました」
資料を渡すと、触らぬ神に祟りなし、という教訓を心の中で反芻しながら、クルリと副社長に背を向けた。
次のコーヒーブレイクの時間に、副社長の1番のお気に入りのコーヒー豆で淹れて、少しでも機嫌を直してもらおう。
『長瀬』
半年間で学んだ副社長の癒しの時間を提供することを心に決めていると、また名前を呼ばれた。
渡した資料に、何かミスでもあったのか、とすぐに彼の方へと向き直る。
「何でしょう」
『……今夜、時間を空けておけ』
え?
突然の飲みの誘いに、一瞬呆然とした私に構うことなく、副社長は仕事に取り掛かった。
「わ、かりました……」
何だか、嫌な予感がする気がするが、今夜も予定がガラ空きな私は副社長からの誘いに頷くのだった。