同僚は副社長様
––カチンッ
満タンに入ったビールのジョッキ2つがぶつかり合った。
『お疲れ』
「お疲れ様です」
いつもの一言で、私と副社長二人きりの飲み会が始まった。
昼のこともあり、緊張しているせいか、ビールもあまり喉が通らない私の隣で、副社長はジョッキの半分近くまでビールを煽った。
「副社長、明日もお仕事ですから、飲みすぎないでくださいね」
『分かってる。それより…その敬語。業務外だからやめてくれ』
トンッ、とジョッキをテーブルに置いた副社長は、同期の顔をした古川くんなんだけれど、なんだか様子がおかしい。
業務中のピリピリとした空気はいつものことだったけど、会社の外でも何処と無く覇気がない気がする。
「そうだね、つい出ちゃった…ごめんなさい。気をつけるよ」
『ああ』
素直に反省の意を示す私に目もくれずに、古川くんは一言だけ発すると、その後何も口に出さなくなった。
こんな重い空気、初めてかもしれない。
いつもは和やかな空気で進むせいか、慣れない空気に、私の胃はさらに萎縮していく。
古川くんがこんな風になってしまっているのは、彼が愛してやまない杏奈さん絡みのことで何かあったからなのか。
それを、私がズケズケと聞いてしまっていいものなのだろうか。
いやでも、古川くんがこうして私を飲みに誘ったのは、誰かに話を聞いて欲しかったからなのかも。
「古川くん、何かあった?」
グダグダ考えても空気は変わらない。
例え彼が杏奈さんのことで落ち込んでいたとしても、心の痛みを隠して彼の話を聞くことはできる。
だから、勢いのままストレートに尋ねてみた。
けれど、数秒たっても、古川くんは何も言わなかった。