同僚は副社長様
『慰めてくれるんだろ?』
「え?」
試すような視線と重なる。
確かに1ヶ月前、私は言った。杏奈さんに告白して玉砕したら慰めてあげる、と。
だけど、あの時の言葉を、まさか古川くんが本気にしているなんて思ってもみなかった私は、動揺を隠せない。
『あれ、あの時のこと忘れちゃった?』
「いや、覚えてるけど…」
『じゃあ、来週の日曜の夜、空けといて。美都の家に行くから』
思いがけない急展開に、心がついて行かなかった。
私の家に来る?古川くんが?
『夜ご飯、作ってよ。たまに会社に持ってきてる美都のお弁当見ると美味しそうでさ、美都の手作り料理、食べてみたかったんだよね』
そう言った古川くんは、いつもの古川くんに戻っていた。
柔らかな、ふんわりとした笑顔。この笑顔に、何回私は癒しをもらったのか数えきれない。
「わ、わかった。頑張って作るね」
お弁当を褒められて、バカ正直に気分が浮ついた私は、自然と笑顔がこぼれた。
好きな人に褒められて嬉しくない女性なんて、この世にいない。
『楽しみにしてる。……でさ、美都に聞きたいことがあるんだけど』
いつもの和やかな空気に戻ったと思ったのはほんの一瞬のことだった。
隣で私に微笑みかける古川くんは、なぜか黒いオーラを身に纏っていた。