同僚は副社長様
『響くんというのは、どんな人?』
「……え?」
古川くんの瞳を見て、すぐにわかった。
彼がさっきのさっきまで機嫌が悪かったのは、やっぱり昼のことだったんだと。
「ご、ごめん!古川くんはお仕事中だったのに、凪子と談笑しちゃって、耳障りだったよね」
『そのことは気にしてない』
え?気にしてない?
じゃあ、なんで機嫌が悪かったの?
やっと分かったと思ったのに、不正解だと言われて、さらに私は動揺する。
『そう言えば、いつも俺の話ばかりして、美都の話を全然聞いたことがなかったと思って。』
そこで一杯目のビールを飲み終えた古川くんは、すかさず二杯目をオーダーした。
…そんなこと、気にしなくてもよかったのに。
私の話なんて、どうでもいい話ばかりで、それこそ好きな人がいるのか、なんて古川くんに聞かれたら、私はどんな顔をして返せばいいのかわからなくなる。
少しでも彼への気持ちを漏らしたくなくて、あまり自分のことを喋らないようにしていたのに、気遣いのできる古川くんは気にかけてくれていた。
そのことが嬉しかった。だけど、同時に切なくもあった。
聞いてもらいたい話はいっぱいある。
彼への恋心。だけど、それは杏奈さんへ絶賛片思い中だった古川くんには、荷が重い話なはずだった。
杏奈さんが結婚することになった今でも、自分の本当の気持ちを古川くんに曝けだせないのは、この7年で古川くんと私じゃ釣り合わないことを痛感させられてきたから。
『今日の昼、美都が茶化されてたから、聞いてみたんだけど、聞いちゃダメだった?』
自分の世界に入ってしまっていると、顔を覗き込まれて、心臓がドキッと音を立てた。