同僚は副社長様
「いや、大丈夫だよ。…響くんは、友達のお兄さんで、…小学生の時によく遊び相手になってもらってたの。久しぶりに再会して、私がお酒が弱いのを気遣ってくれて飲み会を抜け出して、その後一緒にご飯を食べたんだ」
ほんの少しの興味でも、私のことを気にしてくれたことが嬉しくて、つい頰が緩む。
古川くんがこんな風に私のプライベートに耳を傾けてくれることなんて、滅多にないことだ。
『……そうか』
浮き足立った私に反して、隣の古川くんは物憂げな表情を浮かべた。
何か、気に障ったようなことを言ってしまったのか。
途端に不安が沸き起こって、そっと隣へ視線を移す。
「古川くん?」
どうかした?と問いかけると、彼は沈んだ表情を隠して、ふわりと微笑を浮かべた。
『なんでもない。久しぶりに会えて良かったな。……さぁ、冷めないうちに食べよう』
そう言って、明るく受け答えした彼は、目の前の唐揚げに箸を伸ばした。
それに倣(なら)うように私も唐揚げを食べるけど、先ほどの古川くんの表情が気になって、味を感じない。
なんでもない、なんて嘘だ。
何年、彼のことを見てきたと思ってるの。
ほんの少しだけ見えた表情を取り繕っても、分かってしまう。
私の話の中で、彼が気を落とすようなことがあったのだろうか。
直接聞きたいけれど、本人がなんでもないというならば、こちら側もそれ以上踏み込むこともできなかった。