同僚は副社長様


「おはよう」

「…おはよ、古川くん」


ガチャリと玄関のドアを開けると、黒のスキニーパンツに某高級ブランドのパーカーを羽織った古川くんが立っていた。

実は、スーツ姿の彼を目にするのは、これが初めて。

いつも古川くんと飲みにいくときは、平日の、つまりは仕事終わりの夜限定だったからだ。

だからこうして、休日の日に古川くんに会うのは、不思議な気持ちだ。

私服姿も格好いいと思ってしまうのは、惚れた弱みだろうな、きっと。


「質素な部屋だけど、どうぞ」

「お邪魔します」


古川くんを中へと招き入れ、昨日買ったばかりの高級スリッパを彼の前に差し出す。

私のスリッパはもちろん100円ショップで買った安物だけど、古川くんにそんな粗品を履かせるわけにはいかないと、昨夜、高級デパートに駆け込んで買ったものだ。


「ありがとう」


古川くんは基本、自分がしてもらったことに対して、感謝の気持ちを忘れない人だ。

古川くんみたいなお金持ちは、他人が自分にしてくれたことに対する行動は当然のことだと思うだろう。

だけど、彼は違う。

私が彼のために行動した気遣いをちゃんと認識し、感謝の言葉を返してくれる。

だから、いつも好きになる。

何度でも、何回でも、好きが溢れていく。


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