同僚は副社長様



––カチッ

「『お疲れ様』」


ぶつかった二つのジョッキ

隣には、ゴクゴクといい音を立て生ビールを煽る副社長様。

逞しい喉仏が上下するのを横目で見て、なんて色っぽい、と思ってしまうのはいつものこと。


『なに?美都、俺の顔になんかついてる?』

「ううん、別に。」


貴方の喉仏に見惚れてました、なんて死んでも言えないわ。

照れを隠すように、私もちょっとだけぐいっとビールを煽ってしまった。


『…あんま飲み過ぎるなよ。』


隣から優しくかけられた牽制は、きっと私がお酒に弱いのを気にしてのこと。

会社では私の上司で副社長のこの男––…古川 秋斗は、仕事から離れてプライベートでは私に同僚の顔を見せる。

つい1時間前まで、低い威圧感のある声で『長瀬』と呼んでいたあの副社長はどこにもいない。

今、私の隣でビールのつまみにタコワサを食らっているのは、7年前から変わらない、同僚の古川くんだった。


「古川くんもね。」

『やだな、美都よりはお酒強いと思うよ。俺』


負けじと言い返せば、ヘラっとした苦笑が返って来た。

仕事では一度も見せないその気の抜けた笑顔に、私の心の奥はきゅんっとする。


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