同僚は副社長様
「さぁ、椅子はないから座布団の上で申し訳ないけど、座って」
古川くんをローテーブルの前に座らせて、私はテーブルを挟んだテレビ側に座った。
「体勢、きつくない?大丈夫?」
「俺は日本人だよ。正座くらい大丈夫」
「でも、長い時間の正座は足に負担かかるから、くつろぎやすい体勢で全然いいからね」
古川くんの家にお邪魔したことは一回もないから絶対とは言い難いけど、彼の家にローテーブルなんて置いてなさそうだ。
だからきっと、正座なんて久しぶりだと思う。
じゃあ、美都の言葉に甘えようかな、というと、彼は胡坐をかいた。
きっと私がああ言わなかったら、古川くんはずっと正座をしていただろうな。そういう律儀なとこも、愛おしく思えるんだから、私は古川くんにズブズブに恋していると痛感させられる。
「いただきます」
「どうぞ召し上がれ」
彼が箸をみった瞬間、私は飲み物を出すのを忘れていたことを思い出し、キッチンに向かう。
「ん、美味い!」
「…よかった」
ガラスコップに麦茶を注ぎながら、私の手料理を口に運んだ古川くんの様子を見つめると、美味しいの一言を放った瞬間、ガツガツと料理を食べていた。
ああ、私の料理、気に入ってくれたんだな。
言葉は美味いのたった一言であっても、お箸のスピードが次第に早くなっていくその様子こそが、古川くんの私が作った料理に対する気持ちなのだと思えて、安堵するとともに、心がじんわり暖かくなった。