同僚は副社長様
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
数十分後、一緒に食事をしていた私よりも早く、古川くんはあんなにたくさん作った料理を完食してくれた。
食べ終えた古川くんの表情といったら、とても満足そうで。
こっちまで満足な気持ちになる。
「古川くんのお口に合ったかな」
「ああ、合ったもんじゃない、ドンピシャだった。」
ドンピシャ
その一言で、私の心は舞い上がる。最高の誉め言葉だ。
「冷蔵庫にプリンもあるよ。食べる?」
「デザートまで用意してくれたんだ。…美都が食べ終わったらにしようかな。どうせなら、同じタイミングで食べたいから」
「ん、わかった」
だからって、無理に食べるペースを早めなくていいから、と気遣いの言葉をもらってしまった。
今日は私が彼を癒す日なのに。
気遣ってもらって腑に落ちない気もしたけれど、彼の心遣いはとても嬉しいものには変わらない。
「…それにしても美都の部屋、落ち着くな」
「お、落ち着く?」
食事を終えて、することがなくなった彼は、私の部屋全体に視線を向け始めた。
まさか、私の部屋に対する古川くんの感想が、落ち着くだなんて、思ってもみなかった私は思わず箸の動きを止めた。
狭いと思われることはあっても、そんな風に言ってもらえるとは思わなかった。
「狭いでしょ?落ち着くなんて、お世辞だとしても嬉しいけど」
動揺して、遠回しに「そんな風に言うなんて嘘でしょう」というニュアンスを込めた言い方をしてしまった。
それにムッとした古川くんに気付いて、私はさらに心を乱し、視線を下に向ける。
これは素直に彼の言葉を受け止めなかった私が悪い。
可愛くない反応をしたのはわかっているけど、どう取り繕えばいいのかは、恋愛偏差値の低い私にはわからなかった。