同僚は副社長様
「響くんは関係ないよ」
「その男のことは名前で呼ぶんだな」
え…?
急に私から目を逸らし、つまらなさそうに夕飯に手をつける古川くんに唖然とする。
もしかして、古川くんに対しては苗字呼びなのに、響くんは名前で呼んでるから不満に思ってるの?
「秋斗くん」
「は…?」
「あれ、違った?今まで通り、“古川くん“の方がよかった?」
「いや…さっきの、もう一回」
「やだよ。それと、婚約者の件は諦めて。私じゃ到底お役には立ちそうにないから」
好きな人の役に立ちたい気持ちは山々だけど、これ以上彼に近づくのは危険すぎる。
仕事でも毎日顔を合わせるわけだし、同期以上の関係になってその関係が崩れたら、真っ先に首を切られるのは私だ。
ネガティブな未来しか描けない私は、婚約者の件は固くお断りすることにした。
「もういいよ、それは。それより、彼氏いないよな?」
「え?」
「さっきの質問、はぐらかすなよ」
「い、いないよ…なんでそんなこと、聞くの?」
偽の婚約者を断ったのに、それよりも私の恋愛事情を聞くことを優先した古川くん。
しかも、彼氏いるのかと聞いた時は殺気立っていたのに、「いない」と分かれば破顔してみせた。
「恋人がいたら、たとえ同期だとしても異性の家に連れてくるのはトラブルになるかもって不安になっただけだよ」
「そ、そう…」
やっぱり。
古川くんにとって私は、同期という存在価値しかいないのだと、再確認させられた。
それ以降はパーティーの話をすることもなく、夕飯を食べて、翌日の朝ごはんを作って帰ったのだった。