同僚は副社長様


「うん…」

「なんで!」

「だって…怖かったんだもん」


現実主義者なんて、表向きに良く言ったもので、本当の私は自分の気持ちを伝えられないただの臆病者だ。

ただでさえ、最近はプライベートでも古川くんと顔を合わせる機会が増えて自分の気持ちをコントロールすることに必死なのに、仮にも婚約者役になんて引き受けたら、絶対にボロが出る。


「怖いって…アラサーの女がいう言葉かね」

「う…」


目の前の芽衣は呆れた顔で頬杖をつきながらアイスコーヒーをストローで啜った。

言い訳じゃないが、片想いが長かった分、恋愛のいろはなんて忘れてしまった。

信頼できる同僚という地位をこの7年で積み上げてきた私にとって、それ以上の関係を築く勇気も方法も見つけられない。


「芽衣だったら、どうする?」

「ん?」

「もし、好きな人に仮にも婚約者になってくれって言われたら…」

「そんなの考えるまでもなく、即OKするわよ」

「え…だって、相手は自分のことただの同僚としか思ってないんだよ?それなのに、そんな関係になったら虚しいだけじゃ」


誰にも言えなかった不安が溢れ出す。

期待値ゼロの関係にプラスな未来が待ってるなんて、想像できない。

それに、好きな人が結婚したとしても、そう簡単に「好き」という感情は消えないはずだ。


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