同僚は副社長様
長年付き添ってきた杏奈さんから、ポッと出の私では、乗り換えるまでもない。
「相変わらず自己評価低すぎ。どうしてネガティブなことしか想像できないの?一緒にいる時間が長くなれば人間、何かしらの情が湧くはずよ」
情、か…。
「でも、杏奈さんの身代わりなんて、嫌だし…」
これは、私のわがままだ。
杏奈さんを失った代わりじゃなくて、私自身を見て欲しい、なんて醜いわがまま。
こんな感情、古川くんに見せらんないよ…。
「身代わりから始まったって良いじゃない。そこから本命になれるように、頑張れば?美都は今までも自分が欲しいものは努力して手に入れてきたじゃない。受験だって、就職だってさ。どうして自分のキャリアには忠実に向き合うのに、その彼のことになると逃げようとするの?」
親友の言葉はどれも、正論すぎて言い返す言葉が見つからない。
そうだ。いつも私は自分の感情を無かったようにすることに必死で、確実に古川くんの想いは存在するのに、向き合おうとはしなかった。
古川くんに恋心を悟られないように、見て見ぬ振りをしてばかりだった。
「そんなに彼との関係を壊すのが怖いなら、諦めたらどう?良い男、紹介するけど」
「へっ…そんな、すぐには気持ち切り替えられないよ…。それに、良い男ってそんな簡単に見つかるはずが」
「そう?案外、近くにいると思うけど。…うちの、兄貴とか」
は?
空気がどんよりとなったところで、男を紹介する流れになってしまい、思考が一旦停止する。
兄貴って…響くん?!