同僚は副社長様
ここ半年、何かと忙しく業務に終われる私を、古川くんも不憫に思っているのか、度々労ってくれるけれど。
本音を言えない私は、さっきみたいに、会社のためだと言って彼の労いを交わしていたら。
いつのまにか彼の中で私は世の中の男よりも会社が好き、なんてとてつもなく物好きな女として確立されてしまったらしい。
私が『会社のためだ』と言うたびに、『美都はそれほど会社のことを好きでいてくれるんだね、嬉しいな。』と返してくる。
その時の笑顔がなんともなく嬉しそうで、うっかり自分の本音が彼に伝わっているんじゃないかと錯覚しそうになる。
私の感情は、彼にとっては邪魔なものなのに。
「そうだね。この先、誰も私をもらってくれなかったら、会社に永久就職させてもらおうかなぁ」
そんな寂しいことを口走ってしまう心穏やかでない私の反面、彼は楽しそうに笑ってる。
彼の笑顔を見るたびに、私はこれで良かったんだと自分に言い聞かせるんだ。
自分の気持ちを伝えたら、きっとこんな顔を彼は2度と私には見せてくれないことは、分かりきっているから。
『美都なら、大丈夫だよ。最悪、俺が美都と運命の人の仲人になってあげるから。』
そう言って、楽しげに2杯目のビールに口をつけた。
ほらね。
彼の将来に、私は1ミリも入っていないんだもの。
もうこんなことで傷つくほど、私は生ぬるい片想いをしているわけじゃない。
「それより、古川くんはどうなの?結婚、考えてるの?」
私たちももう29歳。
男女ともに、結婚適齢期だ。…私はむしろ遅れ気味だけど。