同僚は副社長様



「そこは妹のために言ってくんないのかね〜」

「ワガママな妹のために急な呼び出しに付き合ってやっただけありがたく思え」

「ちぇ〜」


可愛らしく口を尖らせて拗ねる芽衣は、出会った頃のまま変わらない。

突拍子もないことを突然言うけれど、何故だか協力してあげたくなるような人を動かす原動力のある人だ。


「ふふっ、私、お手洗いに行ってくるね」


空気がカラッと晴れたところで、私は席を立つ。

残された二人は、私の後ろ姿が遠ざかっていくのを確認したあと、ふう、と一息をついた。


「…ったく、お前は相変わらず嘘をつくのも達者だな」

「なんのこと?」


椅子に背を預け、呆れ顔を隠さない響くんに対して、芽衣はとぼけた顔で返した。

すると、響くんはまた一つ大きなため息をこぼす。


「式の予算がないってやつ。お前の旦那、IT企業の社長だろ。金ならタンマリあるだろうが」

「金で物は買えるけど、人の心は動かせないでしょ。それに、感謝してよね。兄貴の長ーい長ーい恋煩いを浄化させようと力を貸してんだから」

「は?」


いわゆる人間の第6感というものを敏感にキャッチすることができる芽衣は、当然、響くんの心のうちもお見通し。


「好きでしょ?美都のこと。美都が小学生の時から」

「な…」

「まぁ、あの頃は思春期だったし?兄貴も中学上がってさすがに小学生の女の子に恋してるなんて言えなくて、わざと美都に会わないようにしていたみたいだけど。もう美都もアラサーだし、別にいいんじゃない?アプローチしても」


芽衣は小学生ながらに、兄が親友へ向ける恋心に気づいていた。

けれど、気づいてから十数年、それを兄自身へ伝えることをせず、見守っていただけだった。

親友への気持ちを浄化できずに彼女さえも作らない拗らせ兄貴と、報われない片想いに悩みすぎて身動きできない親友を見ているうちに、芽衣はやけになった。

だったら、拗らせ同士、くっつけばいいと。


< 77 / 80 >

この作品をシェア

pagetop