同僚は副社長様
「芽衣、お前いつから気づいて」
「そんなの愚問よ。美都には兄貴のこと意識させといたから、あとは兄貴自身が頑張って」
絶句する兄を前に、妹は飄々とアイスコーヒーを一飲みしている。
兄としては、美都のことを意識し始めたのは、自分が中学生に上がった時だった。
小学校卒業までは度々我が家に遊びに来ていた美都を、可愛い妹が一人できた程度にしか思っていなかった。
ただ、中学に入学し、小学生の彼女と顔を合わせない日が続いた、中学1年の夏休み。
部活休みと彼女たちの宿題を片付ける勉強会が重なり、久しぶりに妹二人の勉強の面倒を見ることになった日だった。
『ひーくんと遊べなくて寂しかった』
純粋な心から放たれた美都の言葉は、中学に上がり思春期盛りな友人やクラスメイトに囲まれて辟易していた響の心にクリティカルヒットした。
血を分けた妹の芽衣はあまり兄である自分に頼ることは少ないし、甘えるようなこともしないし言わない。
ただ、芽衣が連れてきた美都という女の子は一人っ子ということも相待って、自分を本当の兄のように慕い、遊ぶときは自分の後ろをついて回るような可愛らしさがあった。
そんな彼女を妹だと思っていたのに、その瞬間、寂しいと眉をハの字にさせて悲しみを見せる姿に心の奥に隠れた庇護欲を掻き立てられたのだ。
まだ小学4年生の女の子。
そんな年下に不純な気持ちを一瞬でも抱いてしまった自分は、あれだけ恋だ容姿だと騒いで軽蔑していた周囲と同じではないかとハッとして、自分を汚らわしく思えた。
それからだ。
もう2度と、あんな気持ちを美都に抱くまいと、美都が我が家に遊びに来るとわかった日はわざと予定を入れて家を空けたのは。
それでも、度々、家で美都と出くわしてしまうことは何度かあり、どうしても美都への気持ちを自覚してしまう瞬間が幾度とあったわけだが。