同僚は副社長様
「…まさか。度々、突然に美都がウチに遊びにきていたのは…」
昔のことを思い出してハッとした。
芽衣は先ほど、小さい頃から俺の気持ちを知っているかのようなことを匂わせた。
ということは、あの時の俺の思惑も悟っていたはずだ。
「あ、やっと理解した?そ。中々、自覚しない兄貴にヤケを起こして、わざと内緒で美都を呼んでたのよ」
「嘘だろ…」
自分の妹が、悪魔にみえる…。
全身の筋肉が脱力し、ガックリと頭を落とす兄を前に、妹は大笑い。
これでは、どちらが年上かわからない。
「それで?お節介さんは今回も、兄の恋路を世話焼こうとしたのか?」
「何言ってんの?大好きな親友のためよ。…そろそろ、不毛な片想いから目を覚ませてあげなきゃ。たまたま美都の相手に見合うのが兄貴だっただけ。よかったね、そのビジュアルとスペックで恋煩い拗らせておいて。やっと自分の番よ」
「とんだ恋の神様気分だな…」
ここまで計算され尽くしていると、反論する気も起きないが、一言皮肉は言いたくなる。
それでも、目の前の策士は不敵な微笑みをやめない。
「ま、つい数ヶ月前までは美都の不毛な恋がどこまで続くのか見ていたい気持ちも大きかったから、そんな気も起きなかったけど、偶然、再会したって話を聞いたら、ね。人を遠ざけるのは意図的にできるけど、偶然の出会いは神の巡り合わせ。自信持ったら?少なくとも、神は兄貴に味方してるわ」
まるで神のお告げ者じみた口調で悟り始める妹に、唖然とした。
「あと一つ、良いこと教えてあげる。あの子、片想い相手に偽の婚約者役を頼まれたけれど、断ったらしいわよ」
「は…?こ、んやくしゃやく、だと…?」
「不毛なのは、一体どちらでしょうね?」
どうやら妹の言う、神は自分に味方しているという言葉は、本当なのかもしれない。
そんな予感を確かに感じながら、響はブラックコーヒーを一気飲みしたのだった。