婚約恋愛〜次期社長の独占ジェラシー〜
プロローグ
「お母さん、どうしても着物を着なきゃダメ? お見合いなんてワンピースでいいでしょう?」

 お見合いに着物……そう聞くと普通は振袖を想像するけれど、この真夏に着たら熱中症になって具合が悪くなることは間違いない。いくら冷房が効いているホテルのレストランだとしても。
 
今、自宅の和室で着つけられているのは、夏でも涼しい紗(しゃ)の着物。縦糸と横糸の密度が粗く、透ける生地でできている。

「おばあちゃんが大事に取っておいたお着物よ。こんな機会でしか、なかなか着ないでしょう? 葉月(はづき)には丈が短過ぎるし、あなたがちょうどいいの」
 
 二十六歳で双子の妹の葉月は、わたし、檜垣(ひがき)花菜(かな)より身長が十センチも高い。

 おばあちゃんは五年前、おじいちゃんは七年前に病気で亡くなっている。

「だからって……」

「ほら、後ろ向いて」

 クルッと向きを変えられると、等身大の鏡に、薄桃色で無地の着物姿のわたしがいた。お母さんは力を込めて帯を締めている。帯は京都西(にし)陣(じん)のクリーム色。

「全体的にシンプルだけどね、帯締めと帯留めを濃い黄色にすれば華やかになるわ」

 後ろで帯の形を作りながらお母さんが話している。

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