さすれば恋となる
池沢、その表札を前に二人で固まる。
「 行く?」
「 うん、行こ 」
インターホンを鳴らして数秒、出てきた人にドキッとしたが、私にはわかった。
その人は緋衣呂君じゃない。
「 池沢君!」
明らかに勘違いしている相瀬さん、私は訂正しようにも困った。
暁月君に睨まれたような気がしたから。
「 何か用?」
「 うん、ずっと休んでるからノートとか持ってきたの。体、大丈夫?」
うわぁ 違う、違うよ~
緋衣呂君じゃないから~
「 上がる?」
え!?
「 いいの? じゃあ お邪魔しようか、詩乃ちゃん 」
「 あ、あの、相瀬さ… 」
「 どうぞ 」
ひぇ~ どうしよう、相瀬さん一人にはできないし……
でも緋衣呂君じゃなくて暁月君がもてなし?
いや、ないよ、なんか怖いもん!
暁月君に通された部屋で待つこと数十分。
あまりに静か……
「 詩乃ちゃんは来たことあるんでしょ?私、こんなに緊張したことないよ 」
「 私は一回だけ…… 」
しかも緋衣呂君の部屋だったし、こんなにも空気が重いのは初めて……