さすれば恋となる

緋衣呂君が私を見つめながらクスッと笑った。

隣で見ている相瀬さんがなぜか照れる。

そして咳払いした相瀬さん。



「 緋衣呂君… 」

「 詩乃、早く帰れ 」



え?

ちょっと、え?


今の笑顔で言うの?



「 相瀬も詩乃と帰って 」



緋衣呂君に言われては帰るしかなく、沈みぎみに池沢家を後にしようとした。

緋衣呂君は私の顔が見れて嬉しいかどうかと気になり、笑顔を見せたと思えば冷たく帰す。

そして玄関先手前に暁月君がいた。

あまり目を見ないように行くが、呼び止められた。



「 もう帰るんだ、早いね 」

「 お… お邪魔しました 」

「 彼女まで帰すなんて、緋衣呂は冷たいな 」



私は暁月君の言葉にゾクッとした。

緋衣呂君と似ているのに、似ていない。

緋衣呂君が目を見れないでいる私の背中を優しく押して、玄関から出た。

途端に、二人で大きく息を吐き出した。



「 池沢君って双子だったんだ…… やっぱりそうなんだ…… 」

「 え、何がやっぱりなの?」

「 噂紛いをちょっとね… 」



それからは何も話してはくれず、緋衣呂君の家の前で相瀬さんとは別れた。



なんか、気になる……

緋衣呂君の噂って何?

実はモテるってのは知ってるけど……



見る先には緋衣呂君がいる家。

目の前なのに、すごく遠く感じる。




< 52 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop