Dear Hero
***


連日降り続いた雨は、飽きたのか大きな雲をどこかに連れていき、代わりに太陽が久しぶりに姿を現す。
昨日まで着ていた長袖のカッターシャツでは暑く感じる程、急に気温が上がり汗ばむ陽気になった。


「大護、次の化学、移動教室だから。起きなさい」

あまりの暑さに机に突っ伏している俺に孝介が声をかけてくれる。

「……起きます。がんばって起きるから先行っててください…」
「夏生まれなのに暑さが苦手とか、大護ウケる」

体を起こせずもにょもにょしている俺の隣で哲ちゃんがケタケタ笑ってるけど、反論もできねぇ。


「授業に遅刻はしないよーに。行こう、哲平」
「はーい…」


教室の中は、同じく移動教室の準備をする人たちでガヤガヤしている。
それにしても暑い。
カッターシャツを脱ぎ捨ててTシャツで授業受けたいくらいだ。
化学の先生はこんなに暑くても長袖の白衣着ているんだろうな、ゴシューショーサマ。
明日も晴れなら絶対半袖で来よう。


体を起こせないまま腕時計を見ると、もう教室を出なくては遅刻してしまう時間。
せーので体を起こそうと意を決したその時、


「……澤北くん」


久しぶりに聞いたその小さな声に、がばっと起き上がる。
そこにいたのは、ぱちくりした俺を心配そうに覗きこむ水嶋だった。

「もしかして、体調悪い…ですか?それなら保健室に…そうでなければ、そろそろ教室移動しないと遅刻しますよ」
「あ、悪い。暑くてのびてただけだから大丈夫……次、化学だっけ?」
「はい。先週の実験のレポートもいりますよ」
「やべ、やってねー…」

急いで机の中を漁って、教科書とノート、レポートの用紙を探し出して移動の準備をする。
すでに教室には誰も残っていなくて、俺と水嶋の二人しかいない。

「急ぎましょう」

教室の入り口へ移動していた水嶋は、尚も俺を待ってくれている。
このままじゃあいつだって遅刻するのに。


———そういえば、移動教室の時はいつも水嶋は最後に入ってくる。
もしかして…
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