Dear Hero
「なぁ、お前もしかして、いつもこうやって最後まで教室にいて残ってる奴がいないか確認してんの?」
廊下を走らないように大股で歩く俺の横を、それよりだいぶ小さな歩幅で小走りになる水嶋に問いかける。
「…そうですね。前の授業から寝てしまってる方や、サボろうとしている方もいますし…」
「やっぱ学級委員だな。マジメ」
「それに、移動するように見せかけてどこかへ行ってしまう方や、もしかして何かに巻き込まれてしまっていたら大変ですし…」
「何かに巻き込まれる?」
大股で歩いていた脚が少しずつ速度を緩める。
同じ速さで歩いていた水嶋が、視界から消えた俺に気付いて同じように足を止める。
「澤北くん?」
「例えば?」
「え?」
「巻き込まれるって、例えば?」
「え……例えばと言われると何も浮かばないんですけど……他のクラスの人に絡まれたりとか…?」
「それを見つけてどうすんの?」
「どう…と言われても……注意したりとか…。あの、“もしかしたら”の話なので…」
こんな話に食いついて引き下がらない俺に、困惑している水嶋。
その“もしかしたらの話”に、先日の夜の公園での出来事が頭をよぎる。
男に絡まれる女。
誰もいない公園。
声を張り上げても届かない“助けて”。
「……じゃあお前は?」
「…え?」
「お前が絡まれてたら、誰がお前を助けるの?」
「…それは……あっ」
すぐに答えなんか出るわけがない。
わかってて投げかけた問いに、予想通り、動揺する水嶋の腕を掴みすぐ傍の視聴覚室に連れ込んだ。
この時間、この教室が使われていない事は知ってる。
普段、授業を受けている教室とは別の棟にあるので、ほとんど人が通らない事も知ってる。
加えて視聴覚室だ。
外に音が漏れないように防音となっているこの部屋では、どんなに声を張り上げても外には聞こえない。
廊下を走らないように大股で歩く俺の横を、それよりだいぶ小さな歩幅で小走りになる水嶋に問いかける。
「…そうですね。前の授業から寝てしまってる方や、サボろうとしている方もいますし…」
「やっぱ学級委員だな。マジメ」
「それに、移動するように見せかけてどこかへ行ってしまう方や、もしかして何かに巻き込まれてしまっていたら大変ですし…」
「何かに巻き込まれる?」
大股で歩いていた脚が少しずつ速度を緩める。
同じ速さで歩いていた水嶋が、視界から消えた俺に気付いて同じように足を止める。
「澤北くん?」
「例えば?」
「え?」
「巻き込まれるって、例えば?」
「え……例えばと言われると何も浮かばないんですけど……他のクラスの人に絡まれたりとか…?」
「それを見つけてどうすんの?」
「どう…と言われても……注意したりとか…。あの、“もしかしたら”の話なので…」
こんな話に食いついて引き下がらない俺に、困惑している水嶋。
その“もしかしたらの話”に、先日の夜の公園での出来事が頭をよぎる。
男に絡まれる女。
誰もいない公園。
声を張り上げても届かない“助けて”。
「……じゃあお前は?」
「…え?」
「お前が絡まれてたら、誰がお前を助けるの?」
「…それは……あっ」
すぐに答えなんか出るわけがない。
わかってて投げかけた問いに、予想通り、動揺する水嶋の腕を掴みすぐ傍の視聴覚室に連れ込んだ。
この時間、この教室が使われていない事は知ってる。
普段、授業を受けている教室とは別の棟にあるので、ほとんど人が通らない事も知ってる。
加えて視聴覚室だ。
外に音が漏れないように防音となっているこの部屋では、どんなに声を張り上げても外には聞こえない。