Dear Hero
「今年は…忘れられない一年になりました」

俺が一人、煩悩と戦う隣でぽつりと水嶋がつぶやく。

「澤北くんと出会えてよかった」
「それは…前にも言ってもらったよ」
「何度言っても足りないくらい感謝してるんです」

照れたように、小さく笑う。

「こうやって、澤北くんの隣にいられる事が夢みたい」
「夢じゃないよ。ずっといたらいい」
「……人は、どんどん欲張りになっていくものですね。隣にいるだけで幸せだったのに、今度はその幸せがずっと続けばいいのに思ってしまいます」

触れ合うほどの距離にある腕が、時々触れて、その度に全身に電気が走るような気持ちになる。


「だから、その…来年も、隣に…んっ」

水嶋の唇に人差し指を当てた。
その続きは、俺が言いたい。


「来年も、俺の隣にいてくれる?」

俺の手を取ると、指先に小さく口付ける。

「いさせてください。ずっと…」



この言葉さえあれば、永遠に幸せが続くと思った。


引き寄せようと右手を後頭部に移動させて、思い留める。
こんなに純粋な水嶋の気持ちを、よこしまな気持ちで汚しちゃいけない気がした。


「ありがとう。俺も、幸せ」


頭をゆっくりと撫でると、気持ち良さそうに目を瞑る。
やっぱり、あの時の子猫に似てるなと思った。
< 129 / 323 >

この作品をシェア

pagetop