Dear Hero
「澤北くんは、ジェントルマンですね」
「………」


撫でる手がピタッと止まる。
こんなにも下心で頭がいっぱいなのに、俺がジェントルマン。
途端に罪悪感が俺を覆っていく。


名残惜しいけど、その手を放してソファから腰を上げた。

「…俺、やる事あるから部屋にいるな」
「……はい。お夕飯の支度が出来たらお声掛けますね」





部屋のドアを閉めると、そのままドアに背を預けて座り込む。

「……そんなん言われたら手ぇ出せないじゃん…」

大きく息を吐くと項垂れた。
ジェントルマンなんじゃなくて、ヘタレなだけだよ。
天然って、怖い。



ふと指先が目に入り、先ほどの唇の感触を思い出す。
むにっとしてて、マシュマロよりも柔らかかったなぁ……。

そっと指先を自身のそれに当ててみる。


「…こんなに硬くない」


—————もっと触れたい、キスしたい、その先までいきたい。


溢れる想いと、やり場のない気持ちをため息にのせて、吐き出すしかできなかった。
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