Dear Hero
ベッドでゴロゴロとしていると、ノックの音が聞こえる。

「お夕飯、準備できてるのですがもう少し後にしますか?」
「あ、ううん、今行く」

部屋でやる事なんてただの口実だ。
実際は何もやる事なくてベッドの中でゲームしたり携帯をいじっているだけだった。


リビングに行くと、テレビの中で白い袴を着たおっさんが、煌びやかな衣装を着た女性アイドルたちをバックダンサーに、演歌を熱唱している。

「毎年この曲。これしかないのかね」
「私たちの世代まで知っているという事は、それだけ心に残る曲だという事ですよ」

くすくす笑いながら、ご飯を山盛りに盛ったお茶碗を渡してくれる。
茶碗も箸も、いつも間にか水嶋のとお揃いになっていた。



数年ぶりに、一番風呂に入った。
今年の汚れは、今年のうちに洗い流す。
心の穢れも一緒に流れていったらいいのにと思った。


続いて風呂から出てきた水嶋は、俺の隣に座ってはっと気づいたようにバスタオルを頭からかぶった。

「これで…大丈夫ですか?」
「……」

一瞬、どういう意味か分からなかったけど、最近は見なくなったファッションショーの続きなのだとわかった。


「そうだな。合格」

ぱあっと顔を輝かせると、第3形態まで進化した豪華な衣装を纏った女性歌手を映すテレビに、ニコニコしながら視線を戻した。
俺は俺で、いったい何が基準の合格なのかも良くわかなかったけど、タオルをかぶって丸々とした姿がマスコットみたいで面白かったから、まぁいいか。
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