Dear Hero
俺はというと、まだ寝れる気がしなくてベッドに寝転がるとゲームの電源を入れる。
最近、忙しくてなかなかできなかったのでシナリオは全然進んでいない。
困った時に現れる男のキャラクターが“ダイゴ”という名前で、こいつと会話している時の画面はどっちが話しているのかわからなくてカオスな状態だった。

これからそのダイゴとバトルに入るので、直前のセーブをしたところでトントンとドアが鳴る。
ノックの主は間違いなく水嶋なので「どうした?」と声をかけるも、返事はない。

不思議に思ってベッドを降りてドアを開けると、うつむいたままの水嶋がいた。

「………」
「何か…あったのか?」
「………」

小さく首を振る水嶋。


話でしか聞いた事ないのに。
実際にその姿を見た事なんてないのに。

ドアの前にうつむいて立つ彼女が、樹さんから聞いた小学生の時の水嶋の姿に見えた。
大きな不安に怯えながら、それでも泣く事を我慢する少女のように。


暗い廊下ではその表情が読み取れず、部屋の中へと引き入れる。
ドアは…開けたままにした。



「もしかして……一人が怖い?」


ビクッと体を揺らすと、「あの…えっと、その…」と口ごもる。



あぁ、そっか。
うちに来てから、一人で眠る事なんてなかったんだ。
いつも部屋には颯希たちがいるし、風邪ひいた時も母さんがパートの時間ギリギリまで傍についていてあげたと言っていた。
一人で暮らしていた時は、毎晩こんな不安そうな顔をしていたのだろうか。
気づいてあげられなかった事が、悔しかった。


「俺のベッド…使う?俺は下に布団敷いて寝るし」
「だ…っだめです、それはだめ!澤北くんが風邪ひいてしまいます!ごめんなさい、何でもありません…」





…あーあ。
お前が悪いんだからな。
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