Dear Hero
抱き締める手に力を入れてトントンと背中を撫でると、強張った身体から力が抜けていくのが分かった。
こんだけくっついていたら、早鐘の様にうるさい俺の心臓の音も聞こえているんだろうな。



トントン……

トントン……


何も言わない水嶋。
背中を撫でる手を止めると、すうすうと寝息が聞こえる。



……え、寝た?

少し体を離して顔を覗き込むと、安心したような顔ですやすやしている。
あれだけ忠告したのに、こんなあほみたいに警戒心のない顔で寝やがって。


“澤北くんは、ジェントルマンですね”


「………」


大きく息を吐く。
ジェントルマンは、寝込みは襲わない。
ちょとだけ、指で唇の柔らかさを堪能した後、伸びかけの前髪をかき分け額にそっと口付けた。



とはいえ、俺はこんな状態で眠れる訳がない。
頭の先から足の指先まで全身元気だよ。


頭の中で数えた羊は、1000匹を超えた。
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