Dear Hero
だんだん外も暗くなり、イルミネーションが点火されると水嶋のテンションはより上がった。
ライトアップ一つ一つを写真に撮ってははしゃぐ水嶋。
自撮りは何度も試みたけど、どれもうまく撮れなかった。


メインイベントであるライトアップショーが始まると、水嶋は「すごい、綺麗」を連発して夢中になっていた。
ショーが終わった後に、あまりにも夢中になりすぎて写真を撮り忘れていた事に本気で落ち込んでいたけれど、俺が代わりに撮っていたとわかったら「よかったぁ」とぼろぼろと泣き出し、俺の方が慌てたっけ。
ショーの合間に、キラキラと楽しそうな水嶋の写真も撮っていたけど気づかなかっただろうから、それは後であいつが見た時のお楽しみだな。



閉園時間になり、出口への人の波にのまれそうな水嶋を手繰り寄せた。

「俺らはこっち」


園内にあるホテルへと足を進めようとすると、突然水嶋が焦りだす。

「え、こちらに泊まるんですか?やだ、こんなすごい所だと思ってなくて…私手持ちないです…」
「ばか、俺が勝手に選んだんだから俺が出すんだよ」
「でも…」
「それともこの人ごみの中満員電車で帰る?この時間から帰ったら地元の電車は終電ないから家まで2時間歩く事になるけど」
「……」
「………帰りたい?」


腰を落として水嶋の目線の高さに合わせて尋ねると、大きく首を振って俺の手を取った。



「……帰りたくない」
「よかった」


ずるいかもしれないけど、水嶋の断れない性格はわかりきってるから先手を打ったんだ。
それに……


「こんなとこで驚いてちゃダメだからな」


にひひっと笑って水嶋の手を引くと、ホテルのチェックインを済ませた。
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