Dear Hero
無事、職員室の担任の手元に渡ったノートと引き換えに、「おー澤北!お前が手伝ってくれたのか!いやぁ、サンキューサンキュー」という担任からの背中バンバンをいただいた。
地味に痛ぇ…
だけど、小さな事でも誰かからの“ありがとう”というのは少し気持ちが良くて。
ちょっとだけ、水嶋ががんばっているのもわかった気がする。


「澤北くん。あの、手伝わせてしまってごめんなさい」
「謝る事じゃないでしょ。俺が勝手にやった事だし」
「そうですが…」
「あ、じゃあこれでこの前、授業サボらせた事とチャラにしていい?」
「えっと…」
「あと、泣かせちゃった事のお詫びは…」

何か。お詫びの品になるような何かないかと胸ポケット、ズボンのポケット、後ろのポケットをぱんぱん。
リュックの中にも何かないかとごそごそ。
すると、この前コンビニでもらった白い猫のストラップ。
哲ちゃんあたりに押しつけようと思ってリュックに入れていたのを忘れていた。

「こんなの…いる?」

おそるおそるリュックから取り出すと、パァッと一瞬表情が輝いたが、はっと気付いたようにいつもの表情に戻る。

「い…いただけません!私にはそんな資格ありません…」
「…本音は?」
「ほ…欲しいです…」
「正直でよろしい」

こんな物でいいの?と手渡すと、このキャラクター、好きなんですと嬉しそうに受け取る水嶋。
マジメで固そうな彼女でも、女の子らしい部分もあるんだなと思うと笑みが零れる。

「…手伝っていただいた上にこんな物までいただいてしまって…すみません…」
「…うーん?」
「?」

あれ。

前にも同じような事があった気がする。
ちょっと違和感のある感じ。

「いや、何でもない」
「本当に、すみませんでした!」

最後にもう一度そう言うと、大きく頭を下げて振り返り、廊下を歩いていった。

俺に、何とも言えない奇妙な後味を残して。
< 15 / 323 >

この作品をシェア

pagetop