Dear Hero
俺が電話をしている間に、依は息を整え、乱れた浴衣を直して涙にまみれた顔を拭っていた。


「お電話、大丈夫でしたか?」
「うん……」


なんて事なかったかのように接してくれるのが、逆に心苦しかった。
依の元に戻ると、思いっきり土下座する。


「怖がらせて、すみませんでした!」
「あああ謝らないでください…!私が煽ったようなものだったので…」
「でも止められなかったのは俺です。ごめんなさい」
「違うんです。私もなんだか自分が自分じゃないみたいにおかしくなっていたのもあるし…」
「でも怖かっただろ。……嫌な記憶、思い出させたんじゃないかって…」
「否定は…しませんが…」
「ほら見ろ、本当に申し訳ない」


床に貼りつく俺の手を取ると、優しく握る。


「次は…優しくしてくれますか?」
「……善処します」


もう一度頭をしっかり床につけると、顔を上げた。


「でもな、依。これだけはもう一度言うけど、俺は今のままで十分幸せなの。お前にこれ以上の事も望んでない」
「……」
「だから余計な事考えないで、依も今のままでいて」
「……」
「あの…さっきのは本当にめちゃくちゃ嬉しかったんだからな。でもあんまりいっぱい言ってもらうと嬉しすぎて俺がダメになっちゃうから。俺のために控えてください。オーケー?」
「……ふふっ。わかりました。善処します」


ようやく笑ってくれた。

「ごめん。それから、ありがとう」


それともう一つ…
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