Dear Hero
「大護遅い!何してたんだよー」
「悪い悪い、腹痛くなって便所こもってた」
「哲平じゃあるまいし、拾い食いとかしてないよね?」
「「するか!!」」

昇降口で待っていてくれていた二人に、ちょっとした嘘で詫びをいれ。
学校を出ようと歩き出すと「そういえば」と哲ちゃん。

「さっき、水嶋がここ通ってたんだけど、なんかすっげーニコニコしててさ!俺、あの人が笑ってんの初めて見たわー」
「確かに。水嶋さんにしては珍しい」
「……へー…」


…もしかして、さっきの猫のストラップ?
思ってたより、単純な奴なのかな。
というか、また俺だけが知らないあいつの姿にちょっともやっとする。


「そういえばと言えば。最近、大護はよく水嶋さんを気にかけてるよね」
「…え!」
「確かに!この前どんなヤツ?とか聞いてたし、昨日も黒板消すの手伝ってたよな!」

昨日というのは、日直だった奴が先生に呼び出しくらってて休み時間に教室にいなくて、代わりに水嶋が黒板を消していた。
テンプレートのように、上の方が届いていなくてまたも自分の椅子を取りに行こうとするもんだから、思わず黒板消しを取り上げ、サッサと消しては「ほい」と黒板消しをリターン。
トイレに行きたくてたまたま通っただけだったので、水嶋が何かを言いかける前に教室を出たから特に会話もなかったのだけど…。


「そういうわけじゃないけど…」
「でも、助かる。俺、委員会の仕事で結構、学級委員の仕事を水嶋さんに頼んじゃったりしてるし」
「……」


…なんだろ。
なんかむっとする。
確かに、孝介は風紀委員も兼ねてるから忙しいのは知ってるけど。


俺よりも彼女の事を理解して、数歩先を歩かれているような気がして。


「…なに膨れてんの」
「ふくれてない…」
「そんなに頬ぱんぱんにして何を…」
「なに?ヤキモチ?大護、水嶋の事好きなの?」
「…ばっ!ちげーよ!そんなんじゃねーし!」
「「ふーん…」」


違う。そんなんじゃない。
ただ、人より損な役回りの彼女をちょっと助けたいって思っただけ。
たったそれだけの事だ。

好きとか、そんなんじゃない。



「…俺、やっぱ今日帰る」
「あらヤダ。すねちゃった」
「拗ねたな」
「…っ拗ねてねーし!!!」


———俺の中に生まれた小さな気持ち。
それに俺自身が気付くのは、まだまだ先の事。
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