Dear Hero

「……キミは？」
「依の……クラスメイトの澤北です」
「ふぅん。依も女ね、ちゃんと男作ってるんじゃない」

一歩近づくと、髪、頬、肩、腕、指と優しく依に触れていく。
目の前にいる娘を見定めるかのように。
迎え入れると伝えるかの如く、マフラーを解きコートを脱がせていく。

「背は……そんな伸びなかったか…。でもカラダは私に似てよく育ったわね」
「……」
「ねぇ、依はキミの事満足させてあげられてる？」
「……っ」
「…っママ！」


“依はそんな奴じゃない”

低俗な事を言われた気がして、そう言い返す前に依が大きな声を上げた。


「…なあに？」
「しばらく……ずっとこっちにいるの…？」
「そうねぇ。向こうのうち出てきちゃったし。あいつ他に女がいた…っ」


……樹さんも言っていたけど、やっぱりそうだったんだ。

『おそらくだけど……姉は、他に男作って出て行ったんだと思う』


言いかけて止めたって事は、依には隠していた事だったんだろうな。


「……そっか」

ふふっと笑う声が聞こえた気がした。


「また、ママと一緒に暮らせるんだ」


母親だけを見つめて喜ぶ依の笑顔は、俺が知ってる依じゃないみたいで背筋がぞっとした。





「それにしても、野暮ったい格好してるわね…」

上から下まで舐め回すように依を見ると、呆れたような声を出す。
ベージュのニットに黒いスカートとタイツ。
飾らなくて自然体の依らしい格好なのに。

「せっかくの依の良さが全然出てない。服くらい買ってあげるわよ。買い物行こうか」
「……本当に…？行きたい……！」

初めておもちゃを買い与えられた子供のように、依の目が輝いた。
優しく依の頭を撫でながら微笑むと、冷たい瞳で俺を見る。

「ほら、キミは帰りなさい。依はこれから私と出かけるんだから」
「でも…依……」
「それともキミは、10年ぶりの親子の再会を邪魔したいの？」