Dear Hero
「昔から…大護のそういう勘はすごく当たるのよね…お父さんに似て」
「………」
「覚えてる?美咲のクラスに乗り込んだ時の事」





覚えてるよ。
小1の時の話だ。
家でも学校でもいつも元気だった姉ちゃんだったけど、ある時ふと元気がないように見えて。
母さんに聞いてみたけど「そうは見えないけど…気のせいじゃない?」と気づいてもらえなかった。
それでもなぜだかすごく心に引っかかって、ある時、朝登校した後にこっそり姉ちゃんの教室を覗きに行ったんだ。
そしたら、姉ちゃんいじめられてた。
クラスの男子にからかわれて、ペンケース投げられて。
ペンケースを拾おうとした姉ちゃんを、後ろから蹴ろうとしてたから、気づいたら教室の中に飛び込んで男子にタックルしてた。
小1VS小6だ。勝ち目なんてなかったけど、姉ちゃん助けなきゃって必死になって、転がされても何度もタックルし続けてた。

先生が来て止められて、母さんも学校に呼ばれてその場でめちゃくちゃ叱られたけど、誰もいなくなった後にこっそりと「お母さん、気づかなくてごめんね。美咲を護ってくれたんだね。ありがとう」と言ってもらったのが、嬉しかったのを覚えている。


「颯希が帰って来ないのを、やけに心配しているなって思ったら、上級生とケンカしてたなんて事もあったわね」


懐かしむように、ふふっと笑う母さん。
そう。こんな穏やかな表情。
それがあの人には感じられなかったんだ。


「大護がそう言うなら、母さんも注意して見ておくわ。今日は依ちゃん帰ってくるかな?」
「わかんない……」
「そう。だったら、ひとまず様子を見るしかないわね」


キィと音をたてて立ち上がると、うつ伏せのままの俺の頭をそっと撫でる。

「中野さんには、母さんから連絡入れておくわ」

それだけ伝えると、部屋を出ていった。





—————その日、依からのメールが返ってくる事はなく、
次の日も依は帰ってこなかった。
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