Dear Hero
自然と足は依のマンションへ向かっていた。
オートロックの解除の仕方は教えてもらった。
エレベーターに乗り、5階のボタンを押す動きはもう体が覚えてしまっている。
玄関の前に立つと、インターホンを鳴らすか考えた。
確か、カメラ付きのものだったはず。
来たのが俺だとわかったら、出てくれるのだろうか。
少しだけ迷い、意を決して震える指でインターホンを鳴らすと、受話器を取られる事なく足音が聞こえた。

玄関が開くと同時に、甘ったるい香水と煙草の混じった臭いが鼻について吐きそうになった。


「なんだ、キミか。学校は?」
「……依がずっと休んでるので心配で」
「あぁそうか。学校には連絡しないといけないのね。…何ボケっと立ってるの?依に会いに来たんでしょう?」


驚くほどすんなりと迎え入れられて、拍子抜けした。
廊下を通り踏み入ったリビングは、そこはもう俺の知らない世界だった。


芝生に座っているような落ち着きのあるグリーンのラグは、目が痛くなるほどのまばゆいピンク色になっていた。
ベージュのシンプルなカーテンは、黒地に大きな真っ赤な花が描かれたものに。
ソファの上には派手な色のクッションがいくつも置かれ、棚や床には趣味の悪い外国のお土産のようなものがいくつも置かれ、テレビは今までの倍くらい大きいものに変わっていた。


「………」
「依、お茶でも出してあげて」

信じられない光景に立ちすくんでいると、依の名前が聞こえ、その声の先を追うとキッチンに依はいた。
後ろ姿しか見えなかったけど、なんだか雰囲気が違う気がする。


「突っ立ってないで、座ったら?」


促されてソファに座るも、初めて来た家のように居心地が悪かった。
しばらくすると、カチャカチャと音を立てて依がやってくる。


「……っ!」

その姿を見て、俺は思わず立ち上がった。
構わず、淡々と温かいお茶をテーブルに置く依。


肩を出し、胸元がざっくり空いたニットにタイトなスタート。
上下とも、体のラインがわかるようなぴったりしたものだった。
スカートから伸びる脚は、とても薄い黒のタイツ。
哲ちゃんから借りたAVで、OL役の女優がこんなの履いていたなと思い出す。
立ち上がった事でしゃがんだ依を真上から見る事になり、見たくないのにどうしても零れそうな胸に目が行ってしまう。
グラビアアイドルかと思った。


これが、母親の言う依の良さなのか?
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