Dear Hero
***


小鳥の爽やかなさえずり。
窓から入る気持ちいい風。
ふかふかのベッド。

今日はいつもより寝足りた気がする。
熟睡できたのかなぁ。
今、何時だろうと手探りで枕元の携帯を探して時間を見ると———


「…っは!?なにこれ寝坊じゃん!!!」


無意識に目覚ましのアラームを解除していたのだろうか。
携帯のディスプレイが示すのは、いつも家を出る時間の10分後。

急いで制服に着替えてリュックを掴むと部屋を飛び出す。
教科書なんかは全部学校に置いてあるから、中身は代わり映えなんかしない。

ドタドタと階段を駆け下りると、「あ、やっと大ちゃん起きてきたよー」と姉ちゃんの呑気な声。

「起きてこないなら起こしてよ!遅刻するじゃん!」
「何度も起こしたわよー。それでも起きなかったのは大護でしょ」
「ぶっ!兄ちゃん寝ぐせやばい」
「うるさいな!直してる時間ないの!」
「大護、朝ご飯は?」
「いらない!食べてる時間ない!」

急いで洗面所で顔洗って、勢いよく出過ぎた歯磨き粉と共に歯ブラシで高速歯磨き。
鏡を見ると、うーわ、ホントすっげー寝ぐせ。
髪はそんなに長い方ではないけど、一部分だけ重力に逆らうようにはねた髪が恥ずかしい。
これは哲ちゃんにワックス借りて学校で直そう。
おまけに頬には枕のシワの跡。
今日の俺、超カッコ悪い。

「大護、お弁当置いておくわよー」
「ありがと!」

リビングに戻って、姉妹が深刻な表情でテレビのニュースを見ながら朝食をとるのを横目に、リュックに弁当を詰め込む。

「大ちゃん、隣町で暴行未遂事件だって。物騒だからあんたも気を付けなさいよ」
「まじで。てか、気を付けるのは俺より姉ちゃんたちでしょ」
「犯人捕まってないんだって。兄ちゃん、可愛い妹のために学校まで送ってって」
「俺寝坊してめっちゃ急いでんのわかってるでしょ!…ぎゃ!もうこんな時間!いってきます!」

リュックを背負いながら、玄関でスニーカーに足を突っ込む。
玄関に置かれたボックスから自転車の鍵を探していると、ぱたぱたとリビングから出てくる母さん。

「今日は午後から雨ですって。バスで行ったら?」
「雨!?今からバスで行ったら間に合わないし、チャリで行くよ」
「傘ぐらいは持って行きなさ…って、大護!」

母さんとの会話もそこそこに家を飛び出し、自転車をかっ飛ばして学校へ向かう。


そんな、慌ただしい朝だった。
< 17 / 323 >

この作品をシェア

pagetop