Dear Hero
戦意を削がれた俺は、黙ってコートとマフラーを拾う。
もう一度、依に伝えたくて声をかけようとすると「あぁ、これ」と被せられ、何かを投げつけられた。
とっさに避けた手に当たって落ちたのは、俺が誕生日に渡したネックレス。
水色の石が、鮮やかなピンク色の中に埋もれた。


「そんな安物、いらないから返すわ。とってもかわいらしいプレゼントね」
「……っ」


ネックレスを拾うと、走って部屋から逃げ出した。
怖かった。女も依も怖かった。
あのままあの部屋にいたら、自分もどうにかなってしまうんじゃないかと思った。


どうして、俺は依の手を取って一緒に出てこれなかったんだろう。



……簡単だ。

これ以上、依に拒絶されたくなかった。
今までの想い出も、すべてなかった事にされてしまいそうだったからだ。



俺、依にちゃんと自分の気持ち伝えてないのに。
あの時少しの勇気を出して伝えていれば。
今更そんな事言っても遅いってわかってるのに。



玄関を背にしゃがみ込むと、涙がどんどん溢れてくる。


悔しい。
情けない。
もどかしい。
不甲斐ない。


何がヒーローだ。
ビビって一人で逃げ帰ってきてるじゃねぇか。


無力だ。
俺の力じゃ依は救い出せない。



涙が握ったネックレスを伝って、地面に雫を落とした。
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