Dear Hero
「大護。どこ行ってたの」


家に帰ると、母さんが心配そうな顔で待っていた。


「先生から連絡があったの。今日、教室で揉めて早退したって聞いて…」
「……」
「騒ぎは孝介くんが収めてくれたって。今日の大護の様子だと、もしかしたら明日来ないかもしれないからってわざわざ連絡くださったわ」
「……」
「依ちゃんのお母様から学校に連絡が入ったそうよ。“家庭の事情でしばらく休ませます”ですって…」

きっと、俺が帰った後に連絡したんだ。
依を閉じ込めるつもり満々じゃないか。


「……あの人、依を自分だけのものにするつもりだよ」
「どうして…」
「さっき、会ってきた。何が家庭の事情だよ…依を孤立させるためじゃん」
「……」
「学校でしょ。生徒が学校に来てないんだから来るようにしてくれないと」
「……親が“休ませます”なんて言ったら、学校側は何も動けないわよ…」



小さくため息をつくと、玄関で立ち尽くす俺に「ちょうどよかったわ」と中へ行くよう促す。
リビングに入ると、父さんと樹さん、そして姉ちゃんという不思議なメンツが顔を揃えていた。

父さんがこの時間にいるなんて珍しい。


「樹さん…!」
「澤北くん…。あ、ご家族の前だから大護くんのがいいのかな」
「どっちでもいいすよ!ねぇ、あの人本当に依の母親!?」
「俺も昨日会ってきたけど…残念ながら、依の母親だ…」
「そうなんだ…。ねぇ、依の格好見た…?」


苦い顔で頷く樹さん。
この前テレビでやってた、娘が彼氏とキスする現場を見た父親と同じ顔してる。


「昔は姉貴も自分が女である事を武器に生きていたからな…」
「だからって…あんなの絶対おかしいよ…母親が娘にさせる事じゃない」
「自分を迎えに来たという喜びと、また置いていかれるかもしれないという恐怖を盾に、依を…支配していくつもりなんだろうな…」
「虐待の可能性が高くなるな」
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