Dear Hero
今まで黙っていた父さんが、声を上げた。


…そうだ、父さん…!


「ねぇ!父さんならなんとかできるんじゃないの!?警察の偉い人なんだろ!?このままだったら依、もっとひどい事されるかもしれない!」
「状況はわかってる。今どう進めてくのか話し合ってるところなんだ」
「そんなのんびりしてらんねぇよ!今すぐにでも連れ出さなきゃ…」
「今は虐待の確たる証拠もない。無理やり連れ出せば今度はこちらが誘拐罪を問われる」
「俺は誘拐したいんじゃない!依を助けたいんだ!」
「わかったから。大護、落ち着きなさい」
「落ち着いてらんねぇよ!父さんはあの人に会った事がないからそんな事言えるんだ!……いいよ、俺がもう一度行ってく…」


パンと大きな音がして、少し遅れて左頬に痛みが広がる。


「落ち着け、大護」
「………」


父さんの低い声には、有無を言わせない威圧感がある。
わかってるよ。俺が一人騒いだところで何かが変わるわけないなんて。
でも思うように事が運ばないのが、歯がゆくて堪らない。


「依ちゃんが実母の元にいるというのが厄介だな…。大護、ここからは大人たちで進めるからお前は勝手な事はするな。急いては事を仕損じる。お前の身勝手な行動で依ちゃんが危険な目に合うかもしれないという事を肝に銘じておきなさい」



“大人”


大人って…何。
俺が依を助けられないのは、まだ子どもだから?
それなら、今すぐにでも大人になりたい。

どうして俺は子どもなんだ。


「大ちゃん」

やり場のない気持ちを籠めて、強く握りしめる拳。
叩かれた姿のまま立ち尽くす俺を、手を引きソファに座らせると姉ちゃんが冷たいタオルを頬に当ててくれた。
父さんの一発は重い。食らったの、何年ぶりだろう。
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