Dear Hero
「……大ちゃんの事だから、“俺は何で子どもなんだ”“早く大人になりたい”とか思ってるんでしょ」
「………」
「大ちゃんは昔から正義感に溢れていたからね。大ちゃんに助けてもらった子はいっぱいいるよ。…私も含めてね」
「……」
「それが大好きな子なんだったらなおさら、すぐにでも助けたいって思う大ちゃんの気持ちはみんなわかってるよ」
「……」
「ねぇ大ちゃん。……どうなったら大人になると思う?」
「……」
「ハタチ超えたら?社会人になったら?結婚したら?パパママになったら?」
「………」
「私は、ハタチも超えたし社会人になったけど、まだ自分が大人になったって実感はない。今でもワガママだし、無茶なお酒の飲み方もするし、仕事でうまくいかない事もあるし」
「………」
「大ちゃんは、いつ大人になると思う?」



……答えられなかった。
俺は、大人になる方法を知らないから。
どうしたら大人になるのかわからないから、遠い存在に思えるんだ。



「お父さんの言ってる“大人”は、“知識”と“経験”と“権限”を持っている人の事だよ。依ちゃんの救出はプロが動いてくれる」
「……」
「…お父さん、中野さんの遠ーい上司だったんだって。うちに来てお父さんと鉢合わせた途端、中野さんすごい背筋伸ばして挨拶してた」

くすくす笑いながらこっそりと教えてくれた。
樹さんも…警察関係者だったんだ…。
あぁ、だから俺初めて会った時あんな簡単に取り押さえられたんだな。


「……今、大ちゃんがすべき事はわかるよね?」
「……」
「普通の生活を送る事。いつもと変わらない日々を過ごす事。いつ依ちゃんが帰ってきても、いつも通りの生活に戻れるように」
「……」
「依ちゃんまで信じられなくなった訳じゃないんでしょ?」
「……」
「だったら、どんと構えて待ってなさいよ。信じて待つのも、ヒーローでしょ」


頭をポンと撫でられたのが合図のように、静かに涙が伝って落ちた。



自分じゃ何もできないもどかしさ。
大人になれない悔しさ。
依を助けたいと思うのは俺一人じゃなかったという安心感。


色んな想いがぐちゃぐちゃに混じった涙が止まるまで、「こんだけ大きくなっても、大ちゃんはやっぱり弟だなぁ」と笑いながら姉ちゃんは隣にいてくれた。


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