Dear Hero
結局、学校には遅刻した。

超高速スピードで自転車を走らせていた結果、たまたま通りがかった警察に見つかり厳重注意を受けるわ、
体育の授業のバスケでは、哲ちゃんからのパスが軌道を逸れて顔面に直撃するわ、
寝ぐせは直らないままだわ、
朝食抜いたおかげで授業中ハデに腹が鳴るわ、
やっとの思いでありついた弁当には箸が入ってなかったわ、
トイレの紙がなかったわで、散々な一日だった。

挙句の果てには……


「……雨…」


下校時間には、母さんが話していた通り雨が振り出していた。
7月の雨は、湿気が息苦しくてキライだ。
ホント、今日の俺はどれだけツイてないんだろう。


「…もしかして、傘お忘れですか?」

そんなに強い雨じゃないし、自転車なら濡れたまま帰ろうかな、それとも止むかもしれないからちょっと様子を見るか。
昇降口でウンウン唸っていたところで、後ろから小さな声が聞こえる。
振り向くと、そこにいたのはまさに今、傘を広げようとする水嶋の姿。
水色の生地に、小さな水玉模様が散りばめられたその傘は、淡くて小さくてひっそりとした、水嶋っぽいデザインだなと思った。

「うん。寝坊して急いで出てきたからなー」
「よ、良かったらこの傘、使…わないですよね…」

勢い良く差し出されたその傘は、俺の目の前に一瞬近づくと、また引っ込んでしまった。

「ありがと。でもさすがにちょっとこれは可愛すぎて俺が使ってたらおかしいかも。せっかくなのにごめん」

小さく笑いながら、片手を上げて“ごめん”のポーズをとると、ですよね…すみません、とさらに小さくなって顔を赤らめた。
水嶋の照れる姿って、ちょっと新鮮かも。

「あの、職員室の前で忘れ物の傘を貸出してますので、良かったら見てみてください」
「まじか!それ助かる。サンキュ」

ナイスな情報じゃないか。
軽く会釈をしながら外へ出ていく水嶋に小さく手を振ると、職員室へ行こうと回れ右してふと気付く。


……水嶋から話しかけられた。


それだけ。
たったそれだけの事なのに、俺のテンションゲージが少しでも回復してしまう。


孝介の言っていた通り、俺は水嶋の事、気にしてしまっているのかな…
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