Dear Hero
***


「あぁ大護くん。今日は制服か。いらっしゃい、わざわざすまないね」

ホテルの部屋のドアが開かれると、ちょっとラフな格好をしたおじさんが迎えてくれた。


「おじゃまします。これ、依の制服と鞄です」
「ありがとう、助かるよ。さぁ入ってくれ」


帰国してからずっと連泊しているという。
「散らかっていてすまないな」と言いながら通された部屋は、脱いだ服がその辺に置いてあったり、色んな所にタオルがかかっていたり、食事の跡が残っていたり。
ちょっと前の俺の部屋のようだった。
こんなに大人になっても、自分と同じような部分があるのだと思ったら、なんだか大人も完璧じゃないんだなって思った。


「……あ、すみません。仕事中だったんですか?」
「いや、ちょうど向こうでも仕事が始まる時間なんだ。その前にだいぶ済ませたから、一息ついていたところだよ」

備え付けの机の上には、ノートパソコンや携帯、手帳や英語の書かれた紙がたくさん置いてある。
残っていた真っ黒な缶コーヒーを飲み切ったおじさんに「飲むかい?」と聞かれたけど、慌てて遠慮した。


「…おじさん、依は?」
「ずっと部屋に閉じこもっているよ。私もなかなか話ができなくてね」

困ったように小さく笑うと、隅にある部屋を指差した。

「大護くんには会いたくない…いや、違うな。合わす顔がない…と言っていたよ」


もしかしたら、おじさんも本当にこれでよかったのか、なんて思ってるのかもしれない。
「小さい頃からほとんど家にいなかったから、依にとっての私は父親ですらないのかもしれないな」と笑う姿が、とても哀しく見えた。
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