Dear Hero
「……依の傍に、君みたいな子がいてくれてよかったよ」
「何も…力になれてません。むしろ…おじさん的にはアレ…なんじゃないすか。娘の周りにお…男がいたらなんつーか…その…」
「ははっ。君の事は樹くんから聞いているからね。樹くんのお墨付きとなれば安心だよ」
「………あざす」


樹さんは、俺の何に一体そんな信用をおいてくれてるんだろうか。
一人の男として認めてもらえたような気がして、もちろん嬉しいのだけど。


「君は、依が好きなのかな?」
「……っ!?」

誰もいないエレベーターに乗った途端、あまりに突然の問いにむせるかと思った。
なんちゅう事言い出すんだこのおっさんは…!
こちらは見ずに、遠くどこかを見ているようなおじさん。


「……まだ本人には伝えてないすけど…。多少の無茶するくらい、大事には想ってる…す…」


好きな子の父親相手に何言わすんだよ。
どんな罰ゲームだ。


左手で口元をガシガシかいていると、「そうか…」と呟いたおじさんがこぼす。

「じゃあ…君には申し訳ない事をしてしまうね」
「……?」


1階に着いてエレベーターが開くと、おじさんも一緒に降りた。


「どういう…事ですか?」

立ち止まっておじさんに問うと、少しだけ考え込むとこちらに向き直した。





「…依を、連れて帰ろうと思うんだ」

「………え?」


たくさんの人でごった返すロビーから、音が消えたようだった。
依を…連れて帰る……?
< 191 / 323 >

この作品をシェア

pagetop