Dear Hero
駅に着くと電車に飛び乗る。
普段、電車通学なんてしないから、初めて通勤ラッシュの洗礼を受けた。
駅に着く度、発車ベルが鳴った後も飛び込んでくる乗客のためにドアが何度も開け閉めされるのが、すごく腹立った。


何時発の飛行機なんだろう。
間に合うかな。母さんに時間まで聞いておけばよかった。
空港なんて、一人で行った事なんかない。
電車の中で人に潰されながら、空港までの経路を調べた。


やっとの思いで空港にたどり着く。
広すぎてどこを探せばいいのかわからない。
電光掲示板を見て、初めて気づく。
俺……おじさんがどこの国に帰るのかすら知らないじゃん……。


出ないのを承知で、依の携帯にかける。
1ヶ月前からずっと同じ、電源が入ってない事を伝えるメッセージが響く。
樹さんにかけても、おじさんにかけても繋がらない。


インフォメーションで呼び出ししてもらおうかな。
依の名前で呼んでもきっと出てきてくれない。
そうだ、おじさん!…いやダメだ、俺おじさんの名前知らない。
どんだけ情報ない中で探そうとしてるんだよ、俺……。


でも、一周探せばどこかで見つかるかもしれない。
空港内を探し回る。
もうゲートを通っていたら手遅れだ。
それでも、何度も走り回った。



「……探せるわけ…ないよな…」


気づいたら、空港にたどり着いてから2時間も経っていた。
空港内の行ける所は何度も探した。
世界中の人が集まるこの場所で、行先も時間もわからずに人を探すなんて無謀なのはわかってる。
諦めきれなくて走り回っていたけど、さすがに息が切れてきてベンチに腰を下ろす。



このまま…依と会えずにお別れなのかな……
俺、まだ依に大事な事伝えてないのに……


最後に会った思い出があの日なんて最悪すぎる。
依の中では俺の事はもう忘れてしまっているのかもしれない。



それでも、俺は依に会いたい。
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