Dear Hero
傘を畳んでUターンすると、自転車に飛び乗り横断歩道まで飛ばす。
タイミング悪く、信号は赤になったばかりだ。
この大通りは車の通行量が多く、信号が変わるまでの時間がとても長い。

水嶋たちがいた場所をもう一度確認すると、指を差しながら一緒に歩き出す二人。
一緒に行かなくてもいいだろ?口で説明するだけでいいだろ、あのバカ。
建物の陰に消えていく二人の姿に、心臓がバクバクと大きく叫んでいる。


変われ、早く信号変われよ———


十分に俺を焦らした信号は、やっと青のランプが点灯する。
スターターの如く、一気にスピードを上げて二人が消えた場所へ向かうが、そこにはもう姿はない。

「あのっ、うちの学校の…この制服の女の子と男の人、ここ通りませんでした!?」

「あぁ、その子たちならここ通って行ったよ」

「うん、すれ違ったね。あそこの角、曲がっていったよ」

「いや、見てないなぁ。ここ通ったの?」

「うーん、見たかもしれない。そこの道に入っていったような気がするわ」


八百屋のおばあちゃん、立ち話をしていたマダム達、向かいから歩いてくる人たち、手当たり次第に二人の特徴を伝えて得た情報を基に、後を追う。
雨がだんだん強くなってきているが、傘なんか差している場合じゃない。



小さな情報を繋げて繋げて、目撃証言が途絶えたらまた戻って聴き込んで。
ようやくたどり着いた場所は、小さな工場だった。
看板は外され、所々古くなっている建物の様子から今はもう使われていない場所なのかもしれない。
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