Dear Hero
それからの俺は、大護を迎えに行くのを装って空手部の練習場に足を運ぶ事が増えた。

紺野は、俺を見かけるといつも笑顔で手を振ってくれた。
それが、部活中でも、大護に用事があって俺たちの教室に来る時でも、廊下ですれ違った時でも、体育の授業の時でも。

俺は単純だから、そんな事でも嬉しくてどんどん紺野に惹かれていった。


……まともに話せるようになるまでには、半年近くかかったんだけど。



そしてその頃には、ちゃんと気づいてた。

紺野の本当の笑顔は、誰に向いているのか。
その笑顔を向けられている人が、紺野の事どう想っているかも。





「……あ、やっべ。弁当箱、部室に忘れた」


冬のある日。
大護と紺野と三人で帰るのは、もう珍しい事じゃなくなってた。
みんな家が同じ方面だから、自然な流れといっちゃ自然だ。
陽が落ちるのが早くなって、暗くなりかけた帰り道で大護が呟く。

「戻って取ってくる」
「お弁当箱はやばいね。一緒に行く?」
「いや、もう家のが近いだろ。俺一人で行くよ。哲ちゃん、紺野頼むな」
「は!?え、ちょっと待っ……大護!」

俺が止めるのも聞かずに、大護は走って戻って行ってしまった。
立ち尽くす俺。


……まじかよ。
紺野と二人きりとか初めてなんだけど……。


「相変わらずおばかだね、ダイくんは」なんてカラカラと笑う紺野。
三人で帰る時だって、大護がいたから何とかなってたのに。

「帰っちゃおっか」
「………おう」
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