Dear Hero
そこにいたのは、肌蹴た制服で掻き抱くように自分を護っている水嶋の姿だった。

先程まで押し倒されていたのだろうか。
上半身だけ起き上がった彼女のまっすぐな黒髪は絡み合い、砂が混じっている。
キャミソールを隠すように手で引っ張っている制服のブラウスのボタンは全開で、中から聞こえたブチブチッという音はブラウスが引き千切られた音なのだとわかった。
太ももまでめくれ上がった、決して短くはないスカート。
揉み合っているうちに外れたのか、いつも表情を護っている眼鏡をなくした彼女の顔は、涙でぐちゃぐちゃなままこちらを見つめている。
そんな彼女に駆け寄り膝をつくと、一度大きくビクッと身体を揺らし、続いて小刻みに震え始めた。

「水嶋…」
「あ…あの……」

まるで、母親に怒られるのを待つ子どものように、カタカタと震えながらこちらを見ている。

どうして、お前がそんな顔するんだよ———

居た堪れなくて思わず彼女の頬に手を伸ばすと、触れる直前で再びビクリと揺れる身体。
驚いて瞬間的に手を引っ込めるが、彼女はふるふると頭を振る。

「ちが……あの…ごめ…さ…」

声にならない気持ちを一生懸命訴えかけてくれるけど、俺には何が違くて、何に謝っているのかがわからなくて。
再びぽろぽろ溢れ出す涙を見たら、もう何も考えられなくて。
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