Dear Hero
二学期の期末テストも終わる頃。
学校帰りに大護とファストフード店へ寄って、受験勉強をしていた。


二人掛けのテーブルにお互い向かい合って、無言でひたすらテキストの問題を解いていく。
問題を解いては答え合わせをし、次の問題を解いては答え合わせをし。
少し集中が途切れてきた頃、ふと顔を上げると窓の外を歩く紺野を見つけた。

「あれ、紺野じゃね?」

俺の声に気づいた大護が、後ろを振り返る。

あ。
ここで紺野呼んだらあいつ喜ぶんじゃないかな。
大護の成績、よく心配しているし。
俺がバカなのもわかっちゃうけど、この際仕方がない。

「紺野、数学得意じゃなかったっけ。教えてくんねーかな」
「そうなの?教えてもらう?」
「大護、呼んできてよ」
「別に哲ちゃんも仲いいじゃん」
「やだよ、恥ずかしーじゃん」

「なんだよ、それ」とぼやきながらも入口へ向かう大護。
文句を言う割には、足取りは軽かった。


窓の外に大護が登場し、紺野に声をかけた。
楽しそうに笑い合う二人。
テーブルに肘をついてじっと眺める。


ほら、大護にしか見せない特別な笑顔。

早く気づけばいいのに。
その笑顔はお前だけのもんなんだよ。


窓の外の大護が俺の方を指さし、導かれるように紺野がこちらを見る。
慌てて顔を逸らしてしまった。
お前らなんて見てないよ風に装う。

横目でちらっと見ると、二人はもうこちらを見ていなかった。

何かに気づいたようにしゃがみ込む紺野。
続くようにしゃがむ大護。
何かを拾って渡す。


たくさんの人が行き交う中でも、二人がいる所だけ光で覆われたように輝いている。
絵のようだった。


二人のそんな姿はもう幾度となく見ているはずなのに。
惚気話はどれだけ聞いても平気になっていたのに。
気持ちに蓋はしているのに。
笑い合う二人の姿を見ると、心が震えて壊れてしまいそう。
こんな想いをするくらいなら、俺の心なんて麻痺してしまえばいいのに。


紺野と別れた大護が、寒そうに学ランの襟に顔をうずめながら店内に戻ってくる。

「紺野、今日は塾あるから無理だって」
「そっか、残念」


俺、うまく顔作れてるかな。
自分で言いだしたのに、紺野が来なくてよかったと思ってしまった。
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