Dear Hero
勉強を再開したはいいけど、大護が「腹減った」というので切り上げる事にした。
テーブルの上を片付けていると、大護のシャーペンが手からすり抜けて落ちる。


「………」

どこかをじっと見たまま動かない大護。

「どうした?大護。シャーペン落ち…」
「ごめん、哲ちゃん。帰る」
「へ?っておい大護!カバンとコート!」


俺の呼び掛けも聞かず、コートも着ずに店を飛び出す。
昔見ていたヒーロー番組で、敵のもとへ向かうヒーローと同じような眼をしていた。

テーブルの上に置かれたままのノートやペンケースを大護のカバンに押し込むと、急いで後を追う。
どこに行ったんだろう。
店の外で辺りを見回しても、大護の姿はもう見えない。
紺野と別れてすぐだったから、紺野を追いかけたのかな。

たくさんの人の波にのまれる。
二人分のカバンと大護のコートを持っているから、上手く走れない。

部活やめてからほとんど体動かしてなかったからかな。
これくらいの距離、走っても全然疲れなかったのに。
尋常じゃないくらい心臓がドキドキして、すぐに息が苦しくなる。
大護みたいに定期的に体動かしておけばよかった。


角を曲がったところで、人影が見えた。
見覚えのあるマフラー。
ついさっき、窓の外で見た紺野のマフラーだ。


………大護は?


走って近づくと、複数の男。
この辺の、ガラが悪いって有名な高校の制服だった。
その人たちが囲むように蹴ったり殴ったり……
暗くてよく見えないけど、中で倒れているのは学ランのヤツだ。


「いいから逃げろ!こん…っ」
「…っテメェこのクソガキ!何してんだゴルァ!」


聞き慣れた声が遮られる。


中にいたのは、大護だった。
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