Dear Hero
電話を掛けながらも、男たちの中に飛び込んでいきそうな紺野を力づくで止める。

男たちが何かを叫んだ瞬間、重い音と大護のうめき声、そして水音。
大護の口元に血が広がっていた。


涙声で大護の名前を呼び続けていた紺野の動きが、スッと止まる。
俺が掴んでいた腕を振り払うと、道の端に置いてあった“とびだしちゅうい“と男の子の書かれた木の看板をズルズルと引き寄せる。


「え、ちょっと紺野、それどうする…」

次の展開が全く予想できなくて、焦って紺野に声をかけるもまるで聞いちゃいない。
目が、据わっている。
初めて見るその目に、背筋がぞっとする。


目を閉じて、大きく息を吐く紺野。
その瞬間、パァーンと大きな音がして、続いてカランカランと何かが転がる音がする。
一瞬、何が起きたのかわからなかったけど、先ほどの看板に向かって右手を突き出している紺野と、上半分がなくなった看板。
1mほど先に、木の板が落ちている。


……紺野が、割った?


俺と同じく目を真ん丸にして看板を見つめる男たち。
音のなくなった空間に、大護の咳き込む声だけが響く。


「……あなたたちもこうなりたいですか?」


聞いた事ないくらい低い紺野の声。
ちびるかと思った。


「おい、やべぇぞこいつ」
「通報しやがった、逃げよう」

次々に叫ぶと、男たちは逃げて行った。
パトカーの赤いランプが見えて、数人の足音が聞こえる。

「あ、お巡りさんこっちです!」

手を上げてお巡りさんを呼ぶ。


「……っダイくん!」

はっと気づいた紺野が、大護のもとに駆け寄る。
手にも制服にも、血がつくのも構わず大護の名前を呼び続ける。
俺も近寄ると、大護は目を閉じて動かなくなっていた。
顔はところどころ変色してるしパンパンに腫れてるし、まるで知らない人みたいだった。
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